【Best Emo of the Year】2024年編
2025年になりましたね。毎年恒例の一年間のまとめを今年もやっていこうと思います。
前回同様、全9部門で、それぞれ大賞1作品と受賞3作品を選考します。
ということで、参考程度に楽しんでいただけましたら幸いです。
今年のEmo/Screamoまとめ
Album of the Year
そんな中、去年はフルアルバムが豊作な年でした。Annabel、Burial Etiquette、Chivàla、Edger、Hey Ily!、Hot Water Music、Nø Man、your arms are my cocoonなど、近年まれにみる盛り上がりを見せましたね。上半期は比較的に落ち着いていましたが、下半期に立て続けに来て驚きました。例年でいうと、大賞は頭が一つ抜けていてすぐに決まることが多かったですが、今年はどれも素晴らしい出来でした。ということで、大賞はThe Arrival Noteの初のフルアルバムです。
『The Arrival Note』と『Vol.2』のEP2作品がとにかく素晴らしく、ずっとフルアルバムを楽しみにしていた反面、EPを超えられるのか不安でもありました。Sense Field、Hot Water Music、Running from Dharmaなどを彷彿とさせる低音ボーカルが特徴的な渋めのEmoスタイルで、2022年の「Best Emo of the Year」では「EP of the Year」に選ぶほどすでに完成されたバンドだったからです。そんな中で発表されたわけですが、何の不満もない素晴らしい完成度でした。
前半はライブ映えしそうなThe Arrival Noteらしいアップテンポな曲が続きます。メロディック系Emo好きは、1曲目の「All in a Lifetime」のイントロから心を鷲掴みにされるのではないでしょうか。次の「World Moves on」では同郷のPost Post-emo Revivalバンドで、対バンなどで親交のあるPostdromeのTravis Loweがゲストボーカルとして参加しています。Travisの声が非常に良いアクセントとなっており、序盤から隙のない作りになってます。他にもGlazedのJustin Ramoneや、ボーカルのJosh Howellの奥さんであるJaden Howellが参加しており、今作はゲスト参加の曲が半分を占めています。
そして、「Shine」と「Astronaut」の力強い曲から、再びTravisが参加した「Based on a True Story」へと続きます。前半(A面)の最後の曲となるわけですが、ここでミドルテンポの少し哀愁の漂うメロディーラインへと変わり、前半の締めと後半(B面)への期待の両方を兼ね備えた良曲です。ここでもTravisの声が効いていて、Joshの声と非常に相性がいいですね。
TravisがやっているPostdromeも素晴らしいバンドで、現時点では2曲入りのデモ音源しかないのですが残念です。The Arrival Noteとはまた音楽性が異なりますが、Indie-emoがお好きな方はぜひ聴いてみてください。
次の「Back to the Start」もゲスト参加曲で、GlazedのJustinが参加しています。Glazedもフロリダのバンドで、2013年結成なので活動期間はかなり長めですが、あまり知名度がない印象です。The Arrival Noteがお好きなら、絶対はまると思いますので、よろしければぜひ。
そして、インスト曲の「Interlude」を挟み、いよいよアルバムの締めとなる最終曲「Chasing Powerlines」です。前述したとおり、毎回バラードで締めるThe Arrival Noteですが、今回もその例に漏れず渾身のバラードとなってます。ライブ映えするアップテンポの曲から、哀愁漂うミドルテンポの曲を挟みつつ、渾身のバラードで締める隙の無い完成度のフルアルバム。自分は真っ先にTexas Is the Reasonの『Do You Know Who You Are?』を思い浮かべました。本当に素晴らしいの一言です。あんなに素晴らしかったEPも序章にしか過ぎなかったとは。The Arrival Note、恐るべしです。
長くなってしまいましたが、最後にアートワークの話も手短にしておきます。曲はもちろんのこと、今作はアートワークもいいんですよね。ボーカルのJoshが手掛けていて、写真と文字で構成されたシンプルなデザインは、まさに歴代のEmoのジャケットに基づいた愛を感じるものになってます。
タイプライターの写真が目立つ配置になっていて、デザインのテーマになってますね。バンド名のフォントもそれに寄せたものになっていて細かいですね(ちなみにこのブログのロゴに使っているフォントも、タイプライターを再現したものです。親近感を感じますね)。タイプライターといえば、Mineralの『Endserenading』やJawboxの『For Your Own Special Sweetheart』ですよね。DIY精神を連想させる良いモチーフです。あと、レコードのジャケットを見るとよくわかるのですが、全体的にドットの目立つ"Y2K"的な加工になっていて、そこも含めて作品の世界観に合っていて好きです。
SnowingやAlgernon Cadwalladerなどの流れを汲んだ、Twinkle系のEmoで、The Arrival Noteに負けず劣らずの完成度です。アルバムのタイトルにもなっている「Double Bind」がお気に入りです。
現時点では、デジタル配信限定ですが、レコード化も進行しているようです。拗らせIndie-emoオタクの私としては、EP『Amateur and Professionals』よりこの『Our Last Taste of Escape』、なんならPenfoldよりもThe Moiraiの方が好きなので、有難いリメイクです。The MoiraiがPenfoldをカバーしたと言いますか、本来目指していた作品に完全に近づきましたね。元々完成度が高かったですが、さらに洗練されており、ヘッドホンで爆音で聴くと最高です。美しいです。もはや神々しくもあります。はやくレコードで聴きたいです。
EP of the Year
『Eudaimonia』- A Place In Prague
おしゃれで浮遊感のあるイントロに、儚く透き通るようなボーカル。そして、1曲目のタイトルを見ればピンと来るでしょう。そうです、完全なLast Days of Aprilフォロワーです。私自身、この作品から知り、聴いた瞬間に最高の北欧Emoが出た来たと小躍りしたのですが、まさかのオーストラリアでした。
出身地はどこであれ、「Last Days of April」から「Killing Time」の流れは、Last Days of April、Leiah、Only If You Call Me Jonathanなどかお好きな方にはドンピシャではないでしょうか。特に「Killing Time」は本当に素晴らしいので、これだけでも聴いて見てください。北欧感はありつつも、冒頭のボーカルの雰囲気は同郷の先駆者的Emoバンド、The Getaway Planの「Where the City Meets Sea」を思い起こさせます。
その後の曲やデビューEPの楽曲では、Math Emoの要素も含まれていて、Bandcampのプロフィール欄にもTTNGの名前があるので、そちらの影響も強いようです。
締めの「Xanthe Thai Saint Windsor」も美メロのオンパレードで素晴らしいです。今、最もフルアルバムが待ち遠しいバンドです。楽しみで仕方ありません。というか、今作を含めフィジカルもおそらく出ていないので、まずはそこからですね。ぜひレコードで聴きたいです。
Single of the Year
『Petal Dance』- Gingerbee
パーティー感のある非常にポップな始まりながら、しっかりとスクリームパートありのBedroom Emo節満載の良曲です。
『Bottom of the Well』- Griefeater
→Shoegaze要素のあるPost Post-emo Revivalバンドです。終盤にはスクリームパートもあり、Post Skramzがお好きな方にも。
『Pierdo』- niniö ayer
→2023年に発表されたmis sueños son de tu adiósとのコラボ曲が最高だったniniö ayerです。あの曲は定期的に聴くくらい好きです。いっそのことコラボEPとか作ってほしいですね。EPも発表しましたがシングルの方を。
『Forward』- hey thanks!
→まさにEmo Power-popというジャンルにふさわしい、若さ溢れるポップなデビューアルバム『Start/Living』が最高だったhey thanks!です。そんな新曲ですが、ほぼあの頃の面影がない落ち着いた楽曲になってます。曲自体はめっちゃいいんですが、あまりにも急に変わりすぎて困惑しました。
今回は、やたらと現行のEmoを褒めちぎるかんじになってますが、こちらのバンドもすごいことになってます。Sinkingの方はそれなりに知られているかと思いますが、Arms Like Rosesはまだまだ知名度が低い印象です。
Split of the Year
Arms Like RosesはEPとフルアルバムをそれぞれ1枚発表していて、今作が初のスプリットです。コネチカットの女性ボーカルEmoで、TweemoやIndie-emo系を基盤にしつつも、スポークンワードも交えたEarly Emoっぽさもあります。The Lazarus PlotやBeta Minus Mechanicなんかが近いかもしれません。
とりあえず、女性ボーカルEmoがお好な方は必聴です。
『Twenty Twenty Four Split』- snooker / bearhug
→どちらのバンドも今作が初の音源のようです。snookerは王道のメロディック系Emoで、bearhugはPost Skramzですね。どちらも素晴らしいので、単独作品が楽しみです。
『Split』- Gxllium! / onewaymirror
→若手Post Skramzバンド2組にスプリットです。溢れんばかりの熱量が伝わってきます。
『Kaleidoscope Split』- son of deni / kidchen / Fiesta Bizarra / Burial Etiquette
Compilation of the Year
再発といえばNumero Groupといえる存在になってますが、最近は作品の発表スパンに対して、契約しているバンドが増えすぎてるか感が強いです。The Hatedが2作目を出すまでに、Boys Life、Boilermaker、Clikatat Ikatowi、Everyone Asked About You、Frail、Karate、90 Day Men、The Pennikurvers、Universal Order of Armageddonといったバンドが作品を発表し、これからBells on Trike、Don Martin Three、Eldritch Anisette、Endive、Ethel Meserve、Thumbnailが控えてますからね...。The Hatedを待ちに待っている自分としては気が遠くなります。
とにもかくにも、やっと発表された2作目ですが、素晴らしい内容です。今作は未発表曲をまとめた編集盤で、3rd アルバム『Every Song』のスタジオセッションの音源をまとめたものです。それまで、1st アルバム『The Best Piece of Shit Vol. 3』と2nd アルバム『What Was Behind』では、ワシントンD.C.の"Revolution Summer"に強く影響を受けた作風でしたが、Dan LittletonとErik Fisherの2人は自分たちの独自の音楽を追求することを決心します。結果として、Indie-rockを取り入れたスタイルに行きつき、『Every Song』を完成させこのスタイルは後にIndie-emoというサブジャンルに発展していきます。
The Hatedはその後すぐに解散し、DanはThree Shades of DirtyやSlackなどを経由して、Idaを結成することになります。そんな『Every Song』制作中から解散までのわずかな期間に制作された、Indie-emoの原点であり、ダイヤの原石のような珠玉の楽曲が収録されてます。タイトルにもなっていてリード曲(?)のような扱いになっている「The Flux」、シングルカット(B面は今作に未収録の「Summer Down」という曲なのですが、屈指の名曲なのでぜひ聴いてください)もされDanの独特なボーカルが光る「T.S. Eliot」など良曲ぞろいです。中でも最後のセッションの日にレコーディングされた「Two People Blues」、「Where You Go」、「The Ballad Of Dexter Bunk」、「Tumbling Ground」、「Third Birthday」の5曲はThe Hatedの最高傑作といっても過言ではありません。セッションにベースのColin MeederとドラムのKenny Hillが来なかったため、弾き語りによる2人態勢で制作されました。アコギの演奏が圧巻の「The Ballad Of Dexter Bunk」、Erikのリードボーカルがひときわ輝く「Two People Blues」、そして今作の最後を締めくくる「Third Birthday」。短い曲ですが、色んな意味で最後の2人の掛け合いが何とも言えません。
もし、DanとErikがもっと一緒に活動していたら...。4th アルバムを発表してIndie-emoを牽引していたら...。Emoの未来は大きく変わっていたでしょう。
Discography of the Year
San Diego Chaoticの雰囲気を漂わせる、Math Rock、Noise Rock要素のあるEmoで、めちゃくちゃかっこいいです。新録のボーカルが渋さマシマシでこれまたいいんですよ。デジタル版だとオリジナル音源も収録されていて、聴き比べができるのでおすすめです。
『the sound of Gefle 1998-2001...』- Kamara
→LeiahのボーカルであるDavid Lehnbergが、ギターとして在籍していた隠れScreamoバンドです。北欧のIndie-emoの貴公子であるDavidがScreamoをやっていたのは意外ですが、めっちゃいいです。ボーカルはがっつりScreamoスタイルですが、楽器隊は随所にLeiahの要素を感じ、今にもDavidが歌いだしそうな雰囲気を醸し出してます。
こういったIndie-emoやMidwest-emoの演奏スタイルとScreamoの組み合わせは、今では珍しくないですが、当時としてはかなり斬新だったのではないでしょうか。
今年には再結成をしてライブをするようなので、今後も目が離せませんね。
『Discography』- Tristan Tzara
→Man Ray(先ほど紹介した、Arms Like RosesもEPのジャケットに使用してますね)の写真を使ったアートワークでお馴染みの、Tristan Tzaraの音源集です。
Louise Cyphreのメンバーが在籍していたドイツのSassで、Manの唯一無二の不気味な写真と相性抜群です。ただ、今作は違うアートワークなので違和感がありますね。カセットとして発表されていた音源集の初レコード化で、内容はもちろん最高です。
去年は目立ったコンピがあまり発表されなかった印象です。その中でも、今作はコンピの良さが詰まった良作です。最近、ぐいぐい来ているフィンランドの現行Screamoバンドをまとめたもので、LetterbombやAlasなどのお馴染みのバンドから、Claire Voyancé、moshimoshiなどの要注目なバンドまで目白押しです。
V.A. of the Year
Screamoに紛れて、shakabrah!とsuite greenというPost Post-emo Revivalバンドがさりげなく参加しているのですが、今作の中でトップクラスに良いです。shakabrah!の方は、どうやらこれがデビュー作のようです。こういうバンドに出会えるのが、コンピの醍醐味ですよね。
『those that fall will flourish again』
→前述したGingerbeeに在籍しているJordan de Graafのレーベルです。111組とんでも大ボリュームです。もはや狂気です。
『skramz unplugged』
→こちらもBSDJです。"unplugged"とタイトルにある通り、全曲アコースティックアレンジによるコンピです。こういった企画色の強いコンピでも当たり前のように、76組参加しているのはどう考えてもおかしいです。作品の発表スパンもそうですが、Jordanの熱量はほんとに凄まじいですね。
『For Palestine』
→またもやBSDJです。こちらはカバー曲によるコンピです。Gingerbeeが参加しているのが熱いです。
去年は1999年に発表された作品が25周年を迎えましたね。1999年は世紀末ということで(?)名作がたくさんあります。American Footballの『American Football (LP1)』、Edalineの『I Wrote The Last Chapter For You』、Jimmy Eat Worldの『Clarity』、No Knifeの『Fire In The City Of Automatons』、Orcidの『Chaos Is Me』(再結成しましたね)、Penfoldの『Amateurs and Professionals』、Rainer Mariaの『Look Now Look Again』、Saves the Dayの『Through Being Cool』などなど。そして、The Get Up Kidsの2nd アルバムもそうです。
Reissue of the Year
1st アルバム『Four Minute Mile』から一気に垢抜けて、その後の"The Third Wave"の先陣を切った金字塔的な傑作の再発盤です。なんといっても、ボーナストラックとして12曲もデモ音源が収録されているのは見逃せない点です。「Action & Action」と「I'm a Loner Dottie, a Rebel」以外の全ての楽曲が収録されたているのですが、これがめちゃくちゃいいんですよ。磨き上げられる前の音源なわけですが、逆に"The Second Wave"の雰囲気が漂い、1stが好きな自分としてはむしろこっちの方が好きです。
この頃はまだ、キーボードのJames Deweesが参加していないようで、それも初期のThe Get Up Kids感があっていいです。Jamesが嫌いなわけではないですし、商業的に成功できたのは彼の加入がかなり大きかったと思いますが、拗らせEmoオタクとしては初期のスタイルがしっくりきますね。特に「Valentine」は断然デモ音源の方が良いと思うのですが、私がおかしいんですかね。
さらに「Long Goodnight」、「The Company Dime」、「I'll Catch You」の3曲はボーカルのMatt Pryorの自宅で録音されたもので、ギターの弾き語りなのですがもう最高です。そして、他の2曲は後にEP『Red Letter Day』とThe Anniversaryのスプリットに収録されることになる、「One Year Later」と「Central Standard Time」です。「Central Standard Time」も前述した宅録の音源で、これまた最高です。
その中からHarriet the Spyを選びました。今回が初の再発です。
『The State Secedes (25th Anniversary Remaster)』- The State Secedes
→Books Lie、Edgar、Testuo(ニューヨークの方)、Usurp Synapseのメンバーが在籍していた、知る人ぞ知るScreamoバンド、The State Secedesのまさかの再発盤です。現状、デジタル限定なのですが、これは非常い有難いですね。OrchidのWill Killingsworthがリマスターを担当している点も熱いです。
『Eyewitness (25th Anniversary)』- Shades Apart
→Shades Apartのメジャーデビュー作となった5th アルバムの再発盤です。Sense Field、Texas Is the Reason、ElliottらとともにRevelation Recordsを代表するEmoバンドで、今回が初の再発です。
去年の現行Screamoといえば、とにかくFebuaryがすごかったですね。CDとレコードも即完売で、ライブも大盛り上がりで大活躍でした。