【The History of Emo】The Second Wave- Part 1: Screamoの誕生と新世代

最終更新日: 2023年5月7日


 かなり久々の「The History of Emo」です...。執筆途中に何度も挫折し、改めてEmo/Screamoとは何かを考えていたら1年以上経ってしまいました。

 前回は1984年から1994年までだったので、今回はEmoにとって最も重要な1994年から2000年までのThe Second Waveについてです。個人的にも一番好きな時代で、前回よりも大幅に文量が多くなってしまったため、Screamo編、Post-emo編、Midwest-emo編の3つに分けて解説していきたいと思います。

 The First Waveの後半の勢いはとどまることはなくアメリカ全土にまでその影響が拡大し、完全に一つのジャンルとして確立しました。
 そして、この時代からEmoの中で、音楽性によって派閥が明確に分かれてくことになります。一つは、The First Waveで中心的な存在だった''Revolution Summer''系のバンドの影響を強く受けた、Hardcore色の強いバンド達。そしてもう一方は、''Early Emo''の要素を残しつつも、Melodic Hardcore、Post-hardcore、Indie Rockなどの様々な音楽性を取り入れていったバンド達です。''Early Emo''の頃から現れていた音楽性の違いが徐々に明確となり、二つの派閥に分かれたEmoはそれぞれ別のジャンルとして発展していくことになります。
 
 The Second Waveは多様化しつつも、''Revolution Summer''由来のDIY精神を保ちながら発展していった素晴らしい時代だと思います。この時期にリアルタイムで聴いていた方々が本当に羨ましいです。

 ということで、今回はScreamo編をお届けします。

    目次

  1. The Second Waveの歴史
  2. The Second Waveのジャンル分け
  3. 脚注と参考資料

The Second Waveの歴史

Revolution Summerの余波とScreamoの誕生

 短命なバンドは相変わらず多かったものの、''Revolution Summer''の影響は全く衰えることなく新しいレーベルやバンドが次々に登場しました。しかし、1994年以降になると徐々に音楽性の違いが顕著になり、''Early Emo''の中で明確に別のジャンルとして発展していくことになります。
 まずは、Rites of SpringEmbraceなどの最初期直系の音楽性を突き詰めたバンドが次々に登場し、独特な歌詞の世界観やAlternative Rockを取り入れたメロディアスなギターはそのままに、叫び声を多用した歌唱法を取り入れた新しいスタイルが徐々に確立されていきます。それらのバンドは特徴的な歌唱法を意味する「Scream」に「Emo」を組み合わせて''Screamo''と呼ばれ、現代においても新しいバンドが次々に登場する一大ジャンルとなります。

アメリカ南部

 すべての原点であるワシントンD.C.では、Rites of SpringEmbraceよりも後続のFugaziによるPost-hardcoreの影響が強く、Dischord Recordsは引き続き大きな存在でしたが、Ian MacKayeの例の発言もあったことで94年以降には''Revolution Summer''直系のEmoバンドはあまり登場しませんでした。しかし、Nervous Wreck KidsPlanaria Recordingsなどは登場し、完全に途絶えることはなくThe First Waveで形成された音楽性はもちろん、''Revolution Summer''で根付いた''反商業主義のDIY精神''は新しい世代に確実に継承されていきます。
 Nervous Wreck Kidsは後に、イリノイで結成されたIndie RockバンドであるAdenに参加することで知られるKevin Bakerと、その兄弟のDerek Bakerの2人によって1994年に創設されました。地元のバンドの作品は発表しませんでしたが、Bubble JugThe Vestpocket Psalmのスプリット『Bubble Jug / The Vestpocket Psalm』から始まり、後にSleepytime Trioを結成するDrew RingoとDavid NeSmithが在籍していたMaximillian ColbyのEP『Maximillian Colby』など数は少ないですが、重要な作品を多く発表します。特に1995年に発表されたShotmakerMaximillan Colbyのスプリット『Shotmaker / Maximillan Colby』は、その印象的なジャケットとともに''Screamo''の黎明期を象徴する作品の1つで、後続のバンドに与えた影響ははかりしれません。
 そして、Bubble JugMaximillian Colbyが誕生したバージニアといえば、2000年以降にも大きな影響力を持つことになるLovitt Recordsが登場しますが、このLovitt Recordsの背景にもワシントンD.C.が大きく関わっています。
 Lovitt Recordsは1995年にノースカロライナでBrian Lowitにより創設され、SoulsideLünch MeatIgnitionなどの伝説的バンドに数多く在籍したChris ThomsonのMonorchidの『Impostor Costume』が記念すべき第1作目となります(1)。その後、1997年に発表されたSleepytime Trioの『Plus 6000』をきっかけに拠点をバージニアへと移し、GroundworkのDave Jacksonによって結成されたFour Hundred Years(後に、Matter of FactPolicy of 3のBull Gervasiも参加)などの作品を発表していきます。地理的にもメリーランドと同様にワシントンD.C.と接しているため、色濃く影響を受けており、なによりもBrian LowitはLovitt Recordsの運営と並行してDischord Recordsでレーベルマネージャーとして勤務していました(2)。ワシントンD.C.を中心に、レーベルを自分たちで運営するカルチャーが広まり、この考え方が浸透していったことはEmoが発展していく上でとても重要な要素となっていきます。
 Planaria Recordingsもそのうちの1つで、1994年にNick Pimentelによって創設されました。Nick PimentelはメリーランドでAnasarcaを結成した人物でもあります。メリーランドは"Revolution Summer"直後の不安定な初期のEmoシーンを支えた地域で、Vermin Scum Recordsを中心に94年以降も引き続き影響力を持っていました。この動きはそのまま南部の他の州にも広がっていきます。

 アーカンソーではThe First Waveで登場したFile 13 Recordsが、ミシガンでCouncil Recordsを運営していたMatthias WeeksとJustin LaboのCurrent、後にShake Ray Turbineを結成するClay SimmonsとDustin ClarkのWilliam Martyr 17、オーナーのDavid Burnsが在籍していたThumbnailなどの作品を発表します。その後は、1997年のFranklinの『Building in A and E』をきっかけにペンシルベニアへと移動し、扱う作品のジャンルも変化していきました。
 ジョージアではConcurrentLunchbox Recordsが登場します。Concurrentは後にPortraitChapman Parkを結成するScott McFarlandによって1995年に創設されました。1作目である4way スプリット『Placebo Compilation』のインサートに、この時期のEmo全体に通じる記述があるので抜粋しておきます。

what this label means: i want this label (if it last) to be 100% diy. too many people are turning their labels into pseudo-companies complete with glossy posters, bar code, bad bands...and kids eat it up. i just don't want to go there and i hope you don't either.

 Placebo Compilation p.11

 要約すると、お金をかけて作られた宣伝用ポスターやバーコードを用いた商品管理による商業的なレーベル運営を批判し、DIYに対する考えが記載されてます。DIY精神はEmoだけではなく別のジャンルでもあると思いますが、ここまで徹底的にDIYにこだわっているのはEmoだけではないでしょうか。The Second Waveからは音楽性によって違いが生まれてきますが、このようなDIY精神はこの時期のEmo全体の根底に流れる重要な考え方になっていきます。
 Lunchbox Recordsは1990年にCar vs. DriverのSteve WishartとScoutのScott Wishartによって創設され、The Hal Al ShedadInkwellなどの地元のバンドの作品を発表しました。現在ではノースカロライナで実店舗のレコードショップとして運営されています。

 フロリダのバンドとしてはI Hate MyselfDon Martin ThreeEarly Graceなどが登場し、特にI Hate Myselfは同郷のNo Idea Recordsから精力的に作品を発表していたこともあり中心的な存在でした。No Idea RecordsはEmoに特化したレーベルではありませんでしたが、1997年にはMoonrakerThe LocustStill Lifeらが参加した『Bread: The Edible Napkin』を発表するなど、重要な役割を担いました。
 サウスカロライナでは1994年にInsurgent Soundsが創設され、1995年にはPrevailが1st EP『...With Such Emotion』を発表しました。Prevailは後にRinseを結成するMark Rodgers、Shawn Williams、Tommy Davisを中心としたバンドで、後述する北東部の"Screamo"を彷彿とさせる音楽性でした。他にもEurichに在籍していたJohn Kaleが創設したFragil Recordsでは、この周辺のシーンを凝縮したコンピ『Fragil Compilation #1』や、I Hate MyselfStrikeforce DiabloによるスプリットEP『I Hate Myself / Strikeforce Diablo』などを発表します。
 さらに、デラウェアのElectric Human ProjectやフロリダのKurt & JasonBelladonna、サウスカロライナのStereonucleosis Recordsなども登場しますが、これらのレーベルは''Screamo''とは少し異なる音楽性を確立させていくことになります。詳しくは後述するのでここでは割愛します。

 このようにワシントンD.C.の影響を背景にメリーランドとバージニアを中心に、南部で新しいレーベルが登場して少しづつ''Screamo''の音楽性が確立されていきますが、発展の中心となるのは、PunkとHardcoreが強く根付いていた北東部やカリフォルニアを含む西部になります。

北東部とScreamoの聖地

アメリカ北東部

 北東部は"Screamo"の中でも特にHardcore色が強く、今後の発展の中でも基盤となる正統派のバンドが多く登場します。Taang! Recordsを中心に過度なストレート・エッジ思想で、いい意味でも悪い意味でもHardcoreシーンから一目を置かれていたBoston Hardcoreで知られるマサチューセッツでは、Moo Cow RecordsClean Plate Recordsが影響力を持つことになります。
 Moo Cow Recordsはマサチューセッツ出身で、当時はバーモントに住んでいたJames Burnhamによって1992年に創設されました。バーモント大学に在学中にバーモントのHardcoreシーンに感銘を受け、ファンジンである「Moo Cow Fanzine」の出版を開始することになります。3、4冊を出版した後に、The Championsの『Once And Future King』をきっかけにレコードの制作し始め、1995年には一時的にウィスコンシンに移動したものの、すぐに地元のマサチューセッツに戻り、ファンジンと並行しながら本格的にレコードレーベルとして再出発しました(3)。 
 17冊目のファンジンを出版した1997年に出版業は終了しますが、地元のChilmark、カナダのNew Day RisingParades End、のちにSong of Kermanに改名するフロリダのGrey Before My EyesYou and Iのメンバーが在籍していたニュージャージーのSky Falls Downなどの作品で知られるようになります。Fall SilentDisembodiesなどのMetalecore/Post-metalにも分類されるHardcoreバンドの作品にも力をいれていたため、それらのバンドの影響を感じさせる"Screamo"シーンが形成されていきます。これらの要素はHydra Head Recordsにも見られました。
 Hydra Head Recordsは、1993年にISISのAaro Turnerによって高校在学中にディストロレーベルとして創設されました。1995年になるとマサチューセッツに移動して、後にState Route 522のJake SnyderとMinus the Bearを結成するDavid Knudsonが在籍していたBotchThe Casket LotteryThe Get Up Kidsのメンバーも参加していたCoalesce、The Third Waveの''Screamo''シーンで重要な役割を担うことになるBoysetsfireなどの作品を発表しました。このような''Screamo''バンドの作品も多く発表し、Hardcoreと密接な関係性で発展していったことを象徴するレーベルといえます。
 このような、Metal由来の重たいギターサウンドに強く影響を受けた"Screamo"は、後にいくつかのサブジャンルが誕生するきっかけになります。この時期にも"Emoviolence"と呼ばれる新たなバンド達が登場します。

 この"Emoviolence"は、叫び声を多用した歌唱法をさらに発展させ、"Revelation Summer"由来のメロディアスなギターからは離れてPowerviolence、Grindcore、Noiseなどの要素を加えたもので、明確な中心地はなく様々な地域から同じようなスタイルのバンドが登場して発展していきました。
 先駆者としてはサウスカロライナのIn/Humanityが、いちはやくGrindcoreやNoiseの要素を取り入れ始めました。ボーカルのChris BickelはStereonucleosis Recordsを運営し、AnarkidGuyana Punch Lineなども結成することで中心的な人物でした。しかし、まだ一つのジャンルとして確立するほどではなく、異質な''Screamo''としての認識でとどまっていたと思われます。そこにClean Plate Recordsを運営していたWill KillingsworthがOrchidを結成し、本格的に"Emoviolence"というジャンルが台頭していきました。

Orchid ファミリーツリー

 OrchidClean Plate RecordsのWill Killingsworthを中心として、Panthersにも在籍することになるJayson GreenとJeffrey Salane、後にWolvesTransistor Transistorとしても知られるBrad Wallaceの4人で結成され、1997年に『We Hate You』を発表しました。ここでの楽曲はLed Zeppelinのカバー曲「Whole Lotta Love」を除いて、その後のEPやスプリットに再録版で収録されますが、Grindcore要素を前面に押し出した名作です。一応、デモ音源扱いなので音質は荒いですが、2000年以降の''Screamo''にも影響を与えた作品であるのは間違いありません。そして、1999年に満を持して『Chaos Is Me』を発表します。
 『Chaos Is Me』では、これまでのスタイルを基盤にしつつ、Powerviolenceの要素も本格的に取り入れ、その完成度の高さから''Emoviolence''を象徴する伝説の名盤として君臨することになります。この直後にBrad Wallaceが脱退しますが、Jayson Greenを中心に結成されたAll I AskPanthersにも参加するGeoff Garlockが加入し、The Third Waveで重要な作品となる『Orchid (12")』などを発表しました。
 さらに、前述したアメリカ南部でも同じスタイルのバンドが登場していきます。フロリダではPalatkaのKurt BurjaとJason Teisinger(Belladonnaのオーナーでもあります)がKurt & Jasonを創設し、CombatwoundedveteranのGavin St.DenisやIn/HumanityのB. Rousseが在籍していたThe End Of The Century Partyなどの作品で知られるようになります。1999年にはPalatkaの『The End of Irony』という『Chaos Is Me』とともに''Emoviolence''を象徴する傑作を発表したことで、歴史に名を残しました。他にもPleed Recordsを運営していたMatt CoplonがReversal of Manを結成し、後にCombatwoundedveteranのChristopher NorrisとDan Raddeも参加することになります。Reversal of ManOrchidとともに、後述するカリフォルニアの重要レーベルから作品を発表し、''Emoviolence''がアメリカ全土に知られるきっかけを作ったバンドです。
 レーベルとしては他にも、インディアナのWitching Hourとサウスダコタの605 Recordingsが登場します。Witching HourRacebannonに在籍していたChristopher Williamsが創設し、Usurp SynapseKhmer Rougeをはじめ、2000年にはJeromese DreamOrchidによる伝説のスプリット『Jeromes Dream / Orchid』も発表します。605 RecordingsThe Spirit Of VersaillesExamination of The...In Loving MemoryEclipse of Edenなどに在籍していた中西部の''Screamo''シーンの中心人物の一人であるTanner Olsonが運営していました。実現はしませんでしたが、Pg.99Love Lost But Not Forgottenの3組でスプリットを出す予定だったThe Harestéなどの作品で知られています。
 バンドとしては、デラウェアのJoshua Fit for Battle、バージニアのPg.99、コネチカットのJeromes Dreamが登場し、どのバンドも本格的な活動は2000年以降になりますが、この1990年代末期に''Emoviolence''というサブジャンルが急速に形成されていきました。
 
 通常の''Screamo''に話を戻して、ペンシルべニアではMagic Bullet RecordsYuletide Recordsが台頭します。
 Magic Bullet RecordsWaifleなどに在籍し、後にChristie Front DriveのEric RitcherとHighnessを結成することで知られるBrent Eyestoneによって1997年に創設されました。Pg.99Majority Ruleなどの作品を発表した2000年以降の印象が強いかもしれませんが、レーベル初作品として、Boysetsfireの名作EP『This Crying, This Screaming, My Voice Is Being Born.』(1996年のJazz Man's Needleとのスプリットを単独作品として再発したものです)を発表します。BoysetsfireOn the Might of PrincesThursdayPoison the Wellらと、The Third Waveにおいて社会現象を巻き起こす新たな"Screamo"シーンの基盤を作った重要なバンドです。このEPの時点で、スクリームパートとクリーンパートを効果的に使い分ける歌唱法を確立することになります。
 Yuletide Recordsは、後にEncyclopedia Of American Traitorsを結成するSteve Sakasitzによって1992年に創設されました。ペンシルベニアの''Screamo''シーンを代表するバンドであるFrailのデビュー作『Frail (7'')』をはじめとして、Spirit AssemblyFour Hundred Yearsなどの作品を発表します。
 そして、北東部において中心的な存在となるのはニューヨークとニュージャージーです。後述するカリフォルニアと並んで、重要な存在となっていきます。
 ニューヨークではThe Mountain Collective for Independent Artists, Ltd.が1993年にHalf ManCampaignに在籍していたChris Jensenによって「Mountain」として創設されました(4)。最初は個人レーベルとして運営し、自身のバンドはもちろん、1995年の『Education』や1996年の『I Can't Live Without It』などのScreamoにおける重要コンピなどを発表します。1998年になると「The Mountain Cooperative」に改名し、Saetiaの唯一のフルアルバム『Saetia (12")』を発表することで、"Screamo"の歴史に永遠に名を刻むことになります。 
 それまではRevolution Summerの直系サウンドで、Rites of SpringEmbraceの解散で失われかけた"Emocore"を引き継ぐ意味合いが強かったように思いますが、このSaetiaの登場であの頃のEmoとはまた違った新たなジャンルとして確立されていきました。

Saetia ファミリーツリー

 Saetiaは、1997年にBilly Warner、Adam Marino、Jamie Behar、Alex Madera、Greg Drudyの5人で結成され、すぐにDemo『Saetia (Cassette)』とシングル『Saetia (7")』を発表します。その後、ベースのAlex Maderaが脱退したため、The Fictionにも参加することで知られるColin Bartoldusを新たに加えて前述した唯一のフルアルバム『Saetia (12")』を制作することになります。1999年にはラスト作となる『Eronel』をWitching Hourから発表し、この頃にはErrortype:Elevenにも在籍していたAdam Marinoが脱退していたため、新たにOff Minorにも参加するSteve Rocheが加わり、ベースだったColin Bartoldusがギターに転向しました。ちなみに解散ライブの際にはSteve Rocheではなく、Aim Of ConradHot CrossOff Minorなどで知られることになるMatt Smithがベースを担当していたようです。
 そして、ドラムのGreg Drubyがデビューシングルを発表するためにLevel Plane Recordsを創設し、ニューヨークのScreamoシーンの重要レーベルとなります。Usurp SynapseYou and IThe State Secedesなどの作品を発表し、Gregも在籍していたHot Crossや残りのSaetiaのメンバーが結成したOff Minorなどと共に、2000年以降においても象徴的な存在として大きな影響力を持ちました。

 他にはImmigrant Sun RecordsAlone Recordsが登場します。
 Immigrant Sun Recordsは、SarinのPat KnightとデザイナーのSean Mallinsonの2人によって1996年に創設されました。後にGospelを結成するAdam Doolingが在籍していたWatership Downや、NYHCやNewschoolの要素を取り入れたHourglassなどのバンドの作品を発表します。
 そして、Knowledgeに在籍していたAndrew Bowmanによって1995年に創設されたAlone RecordsもNYHCやNewschoolの要素が強いレーベルでした。Screamoの歴史を語る上では欠かせない重要レーベルですが、本格的に台頭するのは2000年以降のことになります。ちなみに1995年には自身のKnowledgeが参加したコンピ『Worriors Rising』を発表しますが、Sarinの前身バンドにあたるBirthriteも参加しており、Metal要素のあるScreamoバンド同士の交流があったことがうかがえます。

 ニュージャージーもニューヨークと並んで、北東部のScreamoシーンにおける重要拠点で、The First Waveでも影響力を持っていたBloodlink RecordsOld Glory Records*inchworm.などを中心に新しいレーベルも次々に登場しました。
 Bloodlink Recordsは、後にLost Film Festという映画祭のコーディネーターやEvil Twin Booking Agencyというブッキング・エージェントの代表などを務めるScott Beibin(5)(6)が運営していたレーベルで、GroundworkJuliaFrailWilliam Martyr 17Policy of 3などの作品を発表します。特にPolicy of Old Glory Recordsからも作品を発表したニュージャージーのScreamoシーンを象徴する存在で、Emo/Screamoバンドとしては珍しい政治や社会問題に関する歌詞が多く、それはこの地域全体の特徴にも影響を与えています。
 Old Glory Recordsは、IconoclastのKevin Sabareseが運営していたレーベルで、The First Waveでの活動が目立ちますが、1994年にはこの時代のScreamoシーンの幕開けを予感させる名作コンピ『All The President's Men』を発表します。Gern BlandstenのオーナーであるCharles Maggioが在籍していたRorschachも含め、しっかりとした思想をもった啓蒙的なバンドが多く、この流れは1994年以降のバンドやレーベルにも引き継がれていきます。
 Ordination of AaronIndian Summerによる名作スプリットEP『Speed Kills』で知られる*inchworm.は1994年創設され、第1作目としてチャリティーコンピである『A Food Not Bombs Benefit LP』を発表しました。The Food Not Bombsは1980年頃に反核運動をしていた活動家がマサチューセッツで始めた、野菜などの食料を無料配布するボランティア団体です(7)。こういったチャリティー作品はHardcore界隈では珍しくないですが、Emo/Screamoではあまり多くはありません。ニュージャージーのシーンを語る上では重要な要素といえるのではないでしょうか。
 さらに、Troubleman UnlimitedStatic RecordsSpiritfall Recordsなどが登場します。Troubleman UnlimitedはDJとして知られていたMike Simonetti(8)が1993年に創設したレーベルで、ShotmakerNuzzleなどの作品を発表しました。Static Recordsは作品数は少ないですがBreakwaterSeraphimなどの作品で知られ、1995年には性的暴力を受けた女性を支援するチャリティーコンピ『Inspirit』をSpirit AssemblyのSamuel Stansberyが運営していたAncestryとの共同で発表しています。そして、Spiritfall RecordsからはThe Second WaveにおけるニュージャージーのScreamoシーンを象徴する伝説のバンド、You and Iが登場します。

You and I ファミリーツリー

You and IInstilに在籍していたJustin Hock、Tom Schlatter、Jon Marinariの3人に、Charles ButeraとSky Falls DownのCasey Bolandが加わる形で1996年に結成されました。同年にSage Recordsから1st EP『You and I』、97年にはSpiritfall Recordsから1st アルバム『Saturdays Cab Ride Home』を発表します。この頃にドラムのCharles Buteraが脱退したため、Sky Falls DownのChris Bolandが加入して2nd EPである『Within The Frame』が制作されます。
 その後は、ギターのJonathan Marinariが脱退しNeil Perryを結成したため、4人体制となります。そして、解散の直前にあたる1999年に2nd アルバム『The Curtain Falls』を発表することになります(9)。この2ndは後にAlone Recordsから発表される音源集には収録されなかったため、少し影が薄いかもしれませんが1stに匹敵する完成度で最後を飾るにふさわしい名作です。特に4曲目の「143 (JCM)」(10)は北東部の"Screamo"を凝縮したような名曲で、当時のシーンを理解するうえで欠かせない1曲です。
 このYou and Iも前述のSaetiaと同様にScreamoが一つのジャンルとして確立するうえで重要な役割を担い、メタリックなリフとクリーントーンのアルペジオを巧みに組み合わせた楽曲は、まさに新世代と呼べるものだったといえます。

 このように、北東部はワシントンD.C.のすぐ上に位置し"Revolution Summer"の影響を色濃く受けつつも、ニューヨークやボストンなどの硬派なHardcoreの聖地があるためなかなか複雑な地域ですが、これらの要素が見事に絡み合い独自のシーンが形成されていきました。
 Hardcoreといえば北東部と双璧をなす地域がありますが、もちろんそこでも"Screamo"の発展に大きくかかわり、独自性という意味では北東部以上に大きなインパクトを残すこととなります。

西部とサンディエゴ

アメリカ西部

 北東部と並んでPunk/Hardcoreの重要拠点である西部は、The First Waveの時点でもEmoシーンの基盤となり中心的な存在でしたが、1994年以降に入ってもその勢いは全く衰えませんでした。まずは、北東部のワシントンD.C.ことカリフォルニアにいく前に、規模はちいさいものの西部のシーンを語る上で欠かすことのできない、コロラドとアリゾナを解説していきたいと思います。

 アリゾナではGroundworkが1991年ごろから活動しており、この地域の先駆者でしたが1994年にBloodlink Recordsから発表した『Today We Will Not Be Invisible Nor Silent』を最後に解散してしまいます。しかし、その後はギターのDave JacksonがPolicy of ThreeのBull Gervasiらも参加したFour Hundred Yearsを結成し、"Screamo"を代表する存在となっていきます。ボーカルのBrendan DeSmetはScatheのMike FranklinらとともにBury Me Standingを結成し、Ronnie Abrilが運営していたCode Of Ethicsから作品を発表しました。
 コロラドでは、知名度は低いものの後年に与えた影響力は測り知れないTitanic Recordsに加え、1997年には新たにSatellite Transmissionsが登場します。このレーベルはPeter BottomleyとAndrew Bottomleyの兄弟によって、ファンジンである「Skyscraper Magazine」と同時期に創設されました(11)。元々は1996年に...and then there were noneとしてSurfaceの『Seven Times Overfold』を発表し、Ex-Ignotaの『Jammin' On The One』を制作する際にSatellite Transmissionsへと改名したようです。そして、Titanic Recordsからシングル『Sleeved / Five-Fingered』とEP『Savalas (7")』を発表したSavalasのSonny KayとPaul IannacitoがAngel Hairを結成します。
 Angel Hairは1993年に結成され、1回目のツアー後の1994年にTitanic Recordsから、Engine Kidの結成メンバーであるArt Behrmanが在籍していたBare MinimumとのスプリットEP『Bare Minimum / Angel Hair』でデビューします(12)Savalasでは"Revolution Summer"を彷彿とさせるサウンドでしたが、Angel HairではPost-punkやMath Rockなどの要素を取り入れた斬新なものになっていました。ボーカルのSonny Kayは後にインディーシーンを代表するレーベルとなるGold Standard Laboratoriesを運営しており、1993年にはBunny Genghis、翌年にはMeanfaceの作品を発表しています。これらの地元のバンドもAngel Hairの世界観に影響を与えているのではないでしょうか(13)

 それまでの"Screamo"にはなかった、独特の世界観と変拍子を主体とするサウンドは、すぐにカリフォルニアの"Early Emo"シーンの中心的な存在だったHeroinのMatt Andersonに届き、彼のレーベルであるGravity RecordsからEP『Angel Hair (7")』を発表することになります。このGravity Recordsには同時期にHeroinのAaron Montaigneが結成したAntioch ArrowとScott BartoloniのClikatat Ikatowiも在籍していました。そして、これらのバンドはすべてサンディエゴを拠点に活動しており、この独特のサウンドは一つの都市の中で少しづつ新たなジャンルとして洗練されていくことになります。このような音楽性が誕生したきっかけはHeroinだけではなく、Drive Like Jehuの影響も大きいと思われます。どちらかというと"Post-emo"への影響の方が大きく、"Screamo"シーンではあまり言及されませんがこの地域においては重要な役割を担いました。特に1992年にHeadhunter Recordsから発表された1st アルバム『Drive Like Jehu (12")』はSonny KayとJustin Pearsonがお気に入りの作品として挙げており、独特なPost-punk要素の原点だと言えます(14)(15)。ボーカルのJohn ReisがDrive Like Jehuを結成する前に活動していたPitchforkも含めて、突然変異的に生まれたように思える"異質なScreamo"もしっかりとした基盤の上で誕生したことが分かります。
 さらに、この地にはもう一つ重要な役割を担ったWrenched Recordsというレーベルもありました。Wrenched Recordsは、Antioch Arrowとスプリット『Antioch Arrow / Candle』を発表し、Clikatat IkatowiのMatt Goldsbyも在籍していたCandleのBrian CookとGrant Reineroによって1994年に創設されました。その後はCamera ObscuraのBill Lambが在籍していたThe Shortwave Channelをはじめとして、SpanakorzoCalabash Caseなどの作品を発表しました。この時期になるとAngel Hairが本格的にサンディエゴに拠点を移したこともあり、これらのPost-punk、Art Punk、Math Rockなどを取り入れた新しいScreamoは一気に一つのジャンルとして成長し、"San Diego Chaotic"と呼ばれるようになりました。
 カリフォルニアのサンディエゴという限られた地域だけの小さいシーンでしたが、Three One Gの登場もありその名はアメリカ全土へと広がり、唯一無二の世界観は後のEmoシーン全体に大きな影響を与えることになります。

 Three One Gは、Struggleに在籍していたJustin Pearsonによって1994年に創設され、Struggleで一緒に活動していたEric Allenが並行してやっていたUnbrokenのシングル『And / Fall On Proverb』が最初の作品になりました。そして、Justin Pearsonも参加していたSwing KidsのEP『Swing Kids (7")』をレーベルの2作目として発表します(16)(17)

Swing Kids ファミリーツリー

 Swing Kidsは、Struggleに在籍していたEric Allen、Jose Palafox、Justin Pearsonの3人に、John BradyとJimmy LaValleを加えた5人で結成されました。再結成後の楽曲を含めてもわずか11曲で短命だったものの、前述した音楽性を基盤にしつつもFree Jazzなどの新たな要素を見事に融合させた世界観で"San Diego Chaotic"を象徴するバンドです。Eric Allenは1998年に自殺をして亡くなったためSwing Kids解散後の活動はありませんが、他のメンバーは解散後もシーンを牽引していきました。
 Justin Pearsonは、前述したようにSwing Kidsと並行してレーベルの運営をしていました。解散後はStruggleで一緒だったDylan Scharfらと結成したThe Locustの活動が本格的になり、1996年にはThree One GからMakaraMohinderなどのメンバーが在籍していたJenny PiccoloとのスプリットEP『Locust / Jenny Piccolo』を発表しました。The LocustはGrindcoreを主軸にしつつもNew Waveを彷彿とさせるシンセサイザーも効果的に使った音楽性で、後のScreamoシーンだけではなくGrindcoreやMathcoreシーンにも大きな影響を与えることになります。他にもConstatine SankathiのChristopher SpragueらとThe Crimson Curseを結成し、こちらはPost-punk要素が強めでこれぞ"San Diego Chaotic"というバンドです。1999年にはThree One Gから一時期Strictly Ballroomにも参加していたChris HathwellのThe Festival of Dead DeerとのスプリットEP『The Festival Of Dead Deer / The Crimson Curse』を発表しました。その後はGrindcoreやPost-hardcore系ですが数多くのバンドを結成し、Swing Kidsの中では最も精力的に活動していきます。
 Jimmy LaValleは、Swing Kids以降もJustin Pearsonとの交流がありThe LocustThe Crimson Curseなどに参加していました。ほぼ同時期にはすぐに脱退してしまいますが、
Audio ArmadaのKory RossやThe Crimson CurseのMike CooperらとともにGuyver-Oneを結成します。Jimmy LaValleが在籍していた頃のEP『Guyver-One (7")』はSwing Kidsの影響が色濃く出た音楽性でしたが、脱退後のフルアルバム『Obsessed With....』ではピアノを使用した「My Own Movie」や''Indie-emo''を彷彿とさせるイントロが印象的な「Rickets Shingles」などの楽曲もあり、かなり多彩なバンドでした。そして、バンド名やジャケットデザインなどからもわかる通り日本の漫画である「強殖装甲ガイバー」をテーマにしており、現在では日本のアニメ文化を取り入れたバンドは多いですが、Guyver-Oneはその先駆けとも言えます。その後はConstatine SankathiThe Crimson CurseのChristopher Spragueらと結成したTristezaを経てThe Album Leafとしてソロ活動も始め、Screamoシーンから離れたもののPost-rockシーンにおいて影響力を持つようになります。
 Jose Palafoxは、Struggleと並行して1993年ごろにはHoneywellJaraEmbassyのメンバーが在籍していたManumissionに一時的に参加していたようです。Swing Kids後はFuelTorches To RomeのSarah Kirschと、Yaphet KottoのMag DelanaらとBread and Circuitsを結成します。2002年にはYaphet Kottoにも一時的に参加するなど、サンディエゴ以外のScreamoシーンにおいても知られた存在でした。
 最後にJohn BradyはSwing Kidsと並行して、CandleBoilermakerのメンバーらとのSpanakorzoや、Haymarket RiotのChris DalyらとのSweep The Leg Johnnyとして活動もしていました。SpanakorzoはPost-punkやArt Rock要素が強い音楽性で、Dahlia SeedCradleのスプリットシングル『Greg Ledo's Tears / Milkteeth』で知られるSnowblindからEP『Parasite』を発表し、Three One GからはSwing KidsとのスプリットEPも発表しました。Sweep The Leg Johnnyは後の"Math Emo"を彷彿とさせるバンドで、Karateの作品で知られるSouthern Recordsなどから作品を発表し、かの有名なスプリットシリーズ「Post Marked Stamps」にも参加しました。その後はSweep The Leg JohnnyのSteve Sostak(18)らとZZZZを結成し、"San Diego Chaotic"の異質な要素であったArt RockやPost-punk寄りの音楽性へ進んでいきます。

 サンディエゴという都市だけ見ても、これほど後のScreamoに影響を与えるジャンルが誕生したカリフォルニアですが、そのほかの都市ではThe First Waveでもすでに存在感を見せていたEbullition RecordsAllied RecordingsSunney Sindicut Recordsがさらに影響力を強めていました。
 Allied Recordingsは作品に関しては1995年に発表したFuelの音源集『Monuments To Excess』くらいで、94年以降は"Screamo"よりも次回に解説予定の"Post-emo"の作品が多めでした。ただ、オーナーのJohn YatesはデザイナーとしてPunkシーン全体でも知られる存在となっており、His Hero Is GoneTorches to Romeなどの作品に関わっていました。
 Sunney Sindicut Recordsは、Platypus Scourgeに在籍していたScott Torgusonによって1990年に創設され、後に!!!を結成するNic OfferとTyler PopeのThe Yah MosPlatypus Scourgeのメンバーが中心となったExhaleなどの地元のバンドの作品を発表しました。その中で1993年にSinkerの『Thoughts On Beauty / Perseverance』を発表し、The Second Waveにも大きな影響を与えることになります。

Sinker ファミリーツリー

 Sinkerは元々、Jabberjawに在籍していたAdam Nannaとその兄弟であるSeth Nannaを中心とした3ピースバンドとして結成されました。デモ音源である『Sinker.』の後にドラムのMarkが脱退し、Scott TorgusonとDan Bradleyが加入して4人体制となります。JabberjawJawbreakerを彷彿とさせる音楽性でしたが、Sinkerになると"Revolution Summer"直系の音をいち早く取り入れ、カリフォルニアの"Screamo"シーンの先駆者と呼べる存在でした。その後、Sinkerは約1年ほどで解散してしまいますが2つのバンドに分裂する形で、それぞれがシーンを牽引していきます。
 Adam Nanna、Seth Nanna、Dan Bradleyの3人はMarc Bianchiを加えた4人体制でIndian Summerを結成します。Adam Nannaが運営していたHomemade Recordsから発表したCurrentとのスプリットシングル『Current / Indian Summer』の後にDan Bradleyが脱退し、Eyad Kailehが加わります。そして、Adam Nannaが新たに創設したRepercussion Recordsから、あの「Angry Son (このEPには曲名が記載されていなかったため当時のファンが付けたもので、正式名称はWoolworm)」が収録された伝説のEP『Indian Summer (7")』を発表します。Indian SummerSinkerと同様に短命なバンドで、Embassyとの『Indian Summer / Embassy』とOrdination of Aaronとの『Speed Kills』を発表した後に解散してしまいますが、「Angry Son」だけでもその後の"Screamo"に与えた影響は計り知れません。哀愁漂うクリーントーンのギターにそっとささやくようなスポークンワードによるボーカルという、驚くほど静かな始まりから徐々に感情を露わにしていく様な構成は、Emoという音楽の完成形といえるほどの見事な仕上がりでした。バンド名の由来にもなっているイギリスのRockバンドであるIndian Summerのアルバム『Indian Summer (12")』をオマージュしたジャケットも印象的で、作品としてはThe First Waveですがこの時代も象徴するような存在感です。解散後、Adam Nannaの方はレーベルの運営をしながらDaredevilやThe Silver Horseshoesなどのバンドを結成しますが、どれも短命で目立った活動はありませんでした。Marc BianchiはMohinderのClay PartonとAlbert MendunoとともにCalmを結成し、Clay Partonが運営していたUnleaded Recordsから作品を発表しました。その後はHer Space Holidayとしてソロ活動を行い、サッポロビールのYEBISU THE HOPのCMに出演するなどEmoの垣根を越えて日本でも知られる存在となっていきます。
 残されたScott Torgusonは、Turnkeyに在籍していたDaniel GutierrezらとAmber Innを結成します。SavalasRibbon FixのBrian Gathyも参加したことで知られ、Indian Summerとは対照的にSinkerの延長線上にある"Revolution Summer"直系の音楽性で、こちらも当時のシーンに大きな影響を与えました。そして、このAmber Innが作品を発表するのがかの有名なEbullition Recordsであり、このレーベルがカリフォルニアのシーンの中心的な存在でした。Screamo全体を見てもここまで影響力を持っていたレーベルはなく、このシーンが現在まで続く一大ジャンルになったのはこのレーベルのおかげと言っても過言ではありません。

 Ebullition Recordsは1990年に写真家のKent McClardを中心に創設され、DowncastAdmiralStruggleなどの作品を発表しながら「No Answers」というファンジンも制作し、Emo黎明期における最重要レーベルの1つでした。94年以降になってもその影響力は衰えず、前述したAmber Innの『All Roads Lead Home』をはじめ、Orchidの『Chaos Is Me』、Portraits of Pastの『Portraits of Past (12")』、Reversal of Manの『This Is Medicine』、Yaphet Kottoの『The Killer Was in the Government Blankets』など、Screamoの歴史に永遠に刻まれる名作を立て続けに発表していきました。さらに、同時進行で「No Answers」のほかに新たなファンジンである「HeartattaCk」の刊行も始まります。94年から2006年までの約12年間で50冊も発行され、まだインターネットが普及していなかったこの時代においてアメリカ全土だけではなく日本を含む海外にも、"Screamo"というジャンルが認知されるうえでとても大きな役割を担いました(19)。前述したAdam NannaのRepercussion RecordsやScott TorgusonのSunney Sindicut Recordsもこの「HeartattaCk」にレーベルの広告を掲載しており、リスナーだけではなくオーナー目線から見てもEbullition Recordsはとても重要な存在であったことが分かります。
 
 その他の新しいレーベルとしては、後にThis Machine Killsを結成するBrian Roettingerが1998年にHand Held Heartを創設し、OrchidThe Red ScareVolume 11などの作品を発表しました。This Machine Killsといえば、あのSteve Aokiも在籍しNoiseなどを取り入れた作風で2000年以降の"Screamo"における重要バンドです。レーベルの作品も"Emoviolence"が中心で、これらのバンドに影響を受けていたことがよくわかります。

 カリフォルニアといえば、Blink-182Face to FaceGreen DayJ ChurchNo Use for a NameThe OffspringRancidなどの出身地として知られ、泣く子も黙るPop Punkの最重要拠点であり、"Post-emo"や"Emo Pop"への影響も強いですが"Screamo"においても他の州にはない独創的な音楽性でシーンを席巻しました。"San Diego Chaotic"はどちらかといえばHardcore要素の方が強く、"Screamo"のサブジャンルとして扱われないことも多々ありますが、しっかりと紐解いていけば"Screamo"を語る上で決して欠かせない重要なジャンルだということが伝わっていれば幸いです。
 そして、この時期にはファンジンの影響もありアメリカだけではなく海外にも本格的に"Screamo"が進出していきます。

ヨーロッパと新勢力

 この時期の海外のシーンとしては、カナダとヨーロッパの2つの地域に分けられます。距離的に最もアメリカに近いカナダではM Blanketが先駆者としてThe First Waveから活動しており、このM Blanketに在籍していたDave Wengerがカナダの"Screamo"を牽引していくことになります。Ache Hour Credoを経て、1995年には後にThe Republic Of Freedom Fightersで知られるCarey Mercer、Jode Shortreed、Steve SimardらとBreakwaterを結成します。Static Recordsから発表された『Five』はIndian Summerを彷彿とさせる傑作で、カナダのシーンを象徴する作品と言っていいでしょう。その後はDaddy's Handsを結成し、Post-punkやNoiseを取り入れた作品を発表します
 その他には、Union of UranusHis Hero Is Goneとして知られるYannick Lorrainが、1994年にThe Great American Steak Religionを創設します。自身のバンドの作品が中心でしたが、Reach Outの『Reach Out (7")』やFour Hundred Yearsの『Suture』なども発表しました。
 もう一方のヨーロッパは後に海外シーンを牽引する存在となりますが、この時期にも存在感を見せていました。

ヨーロッパ

 The First WaveではイタリアのHigh Circleが"Revolution Summer"を彷彿とさせる音楽性で、いち早くEmoを取り入れていました。しかし、The Second Waveでは"Post-emo"系のバンドが多く、"Screamo"シーンで台頭するのはThe Third Wave以降であり、この時期にヨーロッパで中心的な存在だったのはフランスでした。当時のフランスといえば、やはりStonehenge Recordsの影響力が強く、オーナーのChristophe Moraが在籍していたFinger PrintUndoneも活動していたためThe Second Waveにおいても重要な存在でした。1995年にはApe RecordsLe Brun Le Roux Corporationとの共同で、AnomiePeu ÊtreによるスプリットEP『Friendly Split Corporation』を発表します。どちらのバンドもその後に地元のシーンを牽引することになるため、象徴的な作品です。
 Anomieは1994年に結成され、メンバーのKathleen Simonneauが運営していたApe Recordsからデモ音源である『Anomie (Cassette)』をきっかけに活動を開始します。97年には唯一のフルアルバムであり、フランスの"Screamo"を語る上で欠かすことのできない傑作となる『Anomie (12")』を発表し、後述するPeu ÊtreとともThe Third Waveでヨーロッパが台頭するきっかけを作ります。作品を発表したのはどれも小さなレーベルで、Anomieの解散後は目立った活動はなかったものの、Finger Printを彷彿とさせるメタリックなギターと男女混合ボーカルによる見事な世界観はその後に大きな影響を与えました。
 Anomieとほぼ同時期に結成され、メンバーであるGérome DesmaisonとLaurent DaudinはLe Brun Le Roux Corporationを運営していました。特にGérome DesmaisonはAlcatrazCarther Matha2138などで精力的に活動しており、一目を置かれる存在でした。それ以外の国ではドイツのEarthWaterSky Connectionが台頭してきます。     

 EarthWaterSky ConnectionBlurred Visionに在籍していたOliver Krebsによって1999年に創設されました。ほぼ同時期にはYageKubiakという新たなバンドを結成し、レーベルの最初の2作品としてそれぞれのデビュー作として『Yage (7")』と『Selfmade』を発表します。Kubiakの方はすぐに解散してしまいますが、YageEarthWaterSky Connectionは2000年以降にさらに知名度を増し、ドイツのシーンを牽引していく存在となります。
 スイスではMugglewump Recordsを運営していたMarriane HofstetterとCarsten Nevelが新たにSundownerを結成します。1999年にはOff the Disk Recordsを運営し、スイスのHardcoreシーンで中心的な存在だったThomas Moelchが新たに創設したDead End Recordsから、唯一のフルアルバムである『Sundowner (CD)』を発表しました。そして、2000年に入るとMarriane HofstetterがApe Must Not Kill Apeを創設し、新たな"Screamo"シーンを席巻していくことになるわけですが、詳細はまた今度。

The Second Waveのジャンル分け

Screamo (Emo-hardcore、Real Screamo)

主要なレーベル (A-Z)
    Alone RecordsAncestryAnimaAnomalyApe RecordsArcade KahcaBelladonna RecordsBlood of the Young RecordsBug RecordingsClean Plate RecordsClue #2 RecordsCode of EthicsConcurrentEarthWaterSky ConnectionEd Walters RecordsElectric Human ProjectEudora RecordsFragil RecordsThe Great American Steak ReligionGreen Hell RecordsHand Held HeartHydra Head RecordsImmigrant Sun Recordsinchworm RecordsInsurgent SoundsKurt & JasonLance Harbor RecordsLe Brun Le Roux CorporationLevel Plane RecordsLilacSky RecordsLovitt RecordsMagic Bullet RecordsMakoto RecordingsMoganono RecordsThe Mountain Collective for Independent Artists, Ltd.Nervous Wreck KidsObscurist PressParalogyPlanaria RecordsPleed RecordsRedwood RecordsReptilian RecordsRhetoric RecordsSatellite Transmissions (...and then there were none)、Schematics RecordsSlave CutSmooth Lips RecordsSnowblindSpearfingerSpiritfall RecordsStatic RecordsStatus RecordingsSubprofit RecordsThe Sunflower TribeTroubleman UnlimitedWitching HourWorkshop Records

主要なバンド (A-Z)
    Ache Hour CredoAkarsoAlcatrazAmber InnThe American DramaAn Acre LostAnasarcaAngel HairAnomieAnonymousAssayAssfactor 4BelieveBev. CloneThe Blood BrothersBlurred VisionBombs LullabyeThe Book of Dead NamesBotchBoy Sets Fire(Boysetsfire)Boxer RebellionBreakwaterBubble JugBullyragBury Me StandingCairo CaponeCarbombCarlisleCarther MathaCatharsisChapman ParkChristClass of Eighty FourClosureColemanConstatine SankathiCromwellDaddy's HandsThe Desert Jet SetDon Martin ThreeDon QuichoteEarly GraceEdgarEdict of MilanElements of NeedEliot RosewaterEmbassyEmo SummerEmpathyEnfoldEngraveEquation of StateEttil VryeEurichThe ExploderFableThe Festival of Dead DeerThe Fifty Two-XFire Is FatalThe Fisticuffs BluffFive Stars for FailureForced to DecayForever and a DayThe Forty-twoFour Hundred YearsFrailFrom Safety to WhereFuneral DinerGamenessGehennaGlassjawGradeGrainGray Before My EyesHail MaryHebrianaHolocronHopesfallHourglassI am HeavenI Hate MyselfIncurable ComplaintThe Infinity DiveImpetus InterInso GreyInstilIpecacI, RobotJaraJasemineJiyuna!JonahJough Dawn BakerJuhlJune's Tragic DriveKamaraKarenzaKassiopeiaKeepsakeThe Khayembii CommuniquéKillsadie(Kill Sadie)KrakatoaThe Last CrimeThe Last Forty SecondsLearyLed by RegretLewistownLinsayL'invention de MorelMainspringMajority RuleMalvaManraeMaximillian ColbyMeltMidvaleMilemarkerMilkwedeMoonrakerMr. PennyMurdock.NemaNetwork 34Neverending...New Day RisingNexus SixNineteenhundredandtwelveNothing Left to GraspOne Fine DayOn the Might of PrincesOrder of ImportanceOrdination of AaronOswald's Last PleaParades EndPeu ÊtrePN(Portie Nootjes)Poison the WellPortraitPortraits of PastPrevailPromise No TomorrowQuitters ClubRachelReach OutThe Red ScareRinseRudimentiSaetiaSarinScatheScoutSeerSeptemberSeraphimSerotoninShake Ray TurbineThe Silence of FallSky Falls DownSleepytime TrioSogSong of KermanThe Song of ZarathustraThe State SecedesStaynlessStrikeforce DiabloSubmission HoldSundownerSymptom of IsaacTetsuo(New York)Thema Eleven30 Second Motion PictureThreadbareThree Penny OperaThree Studies for a CrucifixionTupamarosTwelve Hour Turn2138Under a Dying SunUniform PantsUnionsuitVanillaThe VidablueWaifleWallsideWaltzThe Weak Link BreaksWilliam Martyr 17With Arms Still EmptyWith LoveYageYaphet KottoYou and IYour Adversary

ジャンルを象徴する1枚

Saetia (CD)』- Saetia
 
 衝撃的なデモ音源『Saetia (Cassette)』からわずか1年で制作された唯一のフルアルバムで、Screamoを象徴する伝説のアルバムです。Screamoの中で最も影響力がある作品を選ぶのはかなり困難で、人によって意見が分けれると思いますが、この作品はRevolution Summer、Early Emo、Emoviolenceなどの要素の良いとこどりなお手本のような傑作と言えます。
 北東部のScreamoらしいメタリックなギターから、クリーントーンによるメロディアスなパートまで巧みに織り交ぜた圧巻の世界観はもちろん、スクリームとスポークンワードの歌い分けも絶妙で、何度聴いてもその完成度の高さに驚かされます。
 つい最近、復活を果たしたので(結成メンバーであるJamie Beharが個人的な問題により脱退するなど色々ありましたが...)、The Fifth Waveも踏まえたうえで改めて聴いてみると、今の世代のScreamoにもこの作品が音楽性の根底にあるような気がします。

Emoviolence (Emogrind)

主要なバンド (A-Z)
    All I AskAnton BordmanCombatwoundedveteranDriftEclipse of EdenEncyclopedia of American TraitorsThe End of Century PartyGuyana Punch LineThe HarestéHis Hero Is GoneIndex for Potential SuicideJenny PiccoloJeromes DreamJoshua Fit for BattleJR EwingKhmer RougeLove Lost but not ForgottenMakaraMy LaiNeil PerryOrchidPalatkaPg.99(pageninetynine)RacebannonReversal of ManShahrazadShikariSpirit of VersaillesUnion of Uranus(Uranus)Usurp SynapseVolume 11

ジャンルを象徴する1枚

Chaos Is Me』- Orchid
 
 1997年にギターのWill Killingsworthが運営しているClean Plate Recordsから発表された名作デモ『We Hate You』の収録曲の再録盤を中心にEP1枚とスプリット2枚を制作した後、満を持して発表された1st アルバムです。
 個人的にはOrchidの作品では『We Hate You』が一番好きですが、全体の完成度でいえばこの『Chaos Is Me』が突き抜けてますし、その後の''Screamo''界隈に与えた影響は計り知れません。''Emoviolence''の全てが詰まってます。

San Diego Chaotic

主要なレーベル (A-Z)
    Three One G

主要なバンド (A-Z)
    Calabash CaseCamera ObscuraCandleClikatat IkatowiThe Crimson CurseGuyver-OneImpelThe LocustThe Shortwave ChannelSpanakorzoSwing Kids

ジャンルを象徴する1枚

Swing Kids (7'')』- Swing Kids
 
 San Diego Chaoticは小さなシーンのためバンド数こそ少ないですが、名作揃いでどれも欠かせないものばかりです。その中でも特にこの作品は象徴的な存在と言えるでしょう。
 1994年に制作された唯一の単独作品で、元々はFrailのEP『Idle Hands Hold Nothing』で知られるKidney Room Recordsから発表されましたが、すぐにThree One Gで再発されました。オリジナル曲4曲にJoy Divisionの「Warsaw」のカバー曲を加えた全5曲入り(ちなみに「Warsaw」に出てくる「3-1-G」という歌詞が、Three One Gのレーベル名の由来となっています)で、ジャケットからもわかるようにFree Jazzなどの要素も取り入れており、他のSan Diego Chaoticと比較してもさらに異質な音楽性だったと思われます。
 Jazz要素のあるEmoバンドと言えば、その名前からもCap'n Jazzが真っ先に思い浮かびますが、Math Rockを取り入れている点や全体的な雰囲気などSwing Kidsとの共通点が多い気がします。新しいものを生み出そうという情熱を感じる傑作で、当時のEmoの尋常ではない勢いが伝わってきます。

脚注と参考資料

脚注

(1): Tom Mullenが運営しているポッドキャスト「Washed Up Emo」の2016年の3月に配信されたBrian Lowitがゲストの回です。Lovitt Recordsの話はもちろん、バージニアのバンド達との出会いなどが語られてます。

(2): こちらもBrian Lowitがゲストのポッドキャストです。音楽に限らず、様々な業種のビジネスマンを招いて話を聞く「Citizens of Jobland」というポッドキャストで、2021年の4月に配信された回です。現在、オーナーを務めているアイスクリーム屋「Mount Desert Island Ice Cream (ワシントンD.C.支店)」に関することも語られてます。音楽以外の話題はこのポッドキャストならではだと思うので、意外と貴重ではないでしょうか。

(3): 公式サイトにある歴史を解説したページです。サイトはすでに閉鎖されているので「Internet Archive」のURLを載せておきます。

(4): 公式サイトの歴史解説が載っているページです。

(5): インタビューやコミックなどをまとめた「Apogee Magazine」のホームページに掲載されているScott Beibinへのインタビュー記事です。レーベルの話よりも映画祭に関することが中心ですが、経歴なども語られています。

(6): こちらもScottへのインタビュー記事で、「Jewcy」とういうウェブマガジンに掲載されたものです。2010年の6月10日のものなので、比較的新しい記事ですね。

(7): The Food Not Bombsのサイトに掲載されている歴史を解説したページです。参考までに。

(8): The Vinyl Factoryの公式サイトに掲載されているMike Simonetiへのインタビュー記事です。

(9): No Echoで2020年に掲載されたYou and Iへのインタビュー記事です。Repeater Records版の音源集の発売を記念したものです。

(10): 2011年に再結成をした際のライブ映像がYouTubeに投稿されているので貼っておきます。

(11): 音楽サイトであるKidslooklikekatsで、2010年に公開されたPeter Bottomleyへのインタビュー記事です。サイトはすでに閉鎖されているので「Internet Archive」のURLを載せておきます。

(12): No Idolsのアーカイブに掲載されているAngel HairのSonny Kayへのインタビュー記事です。1994年のかなり貴重な初期のインタビューで、Gravity Recordsから発表されたフルアルバム『Insect Mortality』のレコーディングの4日後に行われたようです。

(13): Bunny GenghisとMeanfaceは情報が少なく、謎のバンドですが音源を聴く限りではSan Diego Chaoticにかなり影響を与えていると考えられます。Bunny Genghisの1993年にコロラドで行われたライブの映像がYouTubeにあったので貼っておきます。見た目の奇抜さはThe Locustなどを彷彿とさせます。

(14): YouTubeに投稿されているSonny Kayのお気に入りレコードを紹介する動画です。2011年に制作されたようです。

(15): Alter the Press!に掲載されている記事です。Justin Pearsonの人生を変えたアルバムが紹介されています。

(16): Three One Gの公式サイトに掲載されているレーベルの創設までのいきさつを解説したページです。

(17): 「QRD」というWebマガジンに掲載されているJustin Pearsonへの一問一答の記事です。

(18): 改めてSweep the Leg Jonnyについて調べていて気付いたのですが、Steve Sostakが49歳で亡くなっていたようです。管楽器を使ったEmoバンドと言えば、Constatine Sankathi(トロンボーン)やCap'n Jazz(ホルン)などがいますが、その中でもSteve Sostakは中心的な存在だったと思います。他のバンドではあくまでサブ要素として使うことがほとんどでしたが、Sweep the Leg Jonnyはほぼ主役として組み込んでいて、唯一無二の世界観でした。

(19): Ebullition Recordsが運営している「HeartattaCk」のアーカイブサイトです。全50冊がPDFで閲覧できます。「No Answers」も一部掲載されてます。当時はファンジンの全盛期でEmo界隈でも数多く刊行されていたと思いますが、「HeartattaCk」はその中でも最も影響力があったと思われます。これをきっかけにEmo/Screamoを知った方も多かったのではないでしょうか。

参考資料


Rate Your Music- Emoviolence


 今回はこれで以上になります。次のPost-emo編は1年かからないはずです...。来月に投稿できるかは不明です...。


-Yasuaki